10MHz 基準周波数発生器
周波数カウンターなどの校正に必要な10.000000MHzを発生する基準周波数発生器を製作しました。
これは、秋月で販売されている12.8MHzのTCXO(温度補償されたクリスタル発振器)を基準発振とし、PLLを用いて100/128倍して10MHzに変換するものです。
1Hzのケタまで正確な周波数を発生させる事が出来ました。
以前、秋月からテレビのバースト信号にロックした正確な10MHzを発生させるキットが販売されていたことがあり、私もこのキットを購入して使用しています。
ところが、地上波のテレビ放送がいずれ全てデジタル化されてしまいます。
恐らくデジタル放送波には、バースト信号は重畳されないと思いますので、そうなるとバースト信号を利用したものは、使えなくなってしまいます。
そこで、本機の製作を思い立ちました。
回路説明
12.8MHzのTCXOは、74HC393で1/128分周されて100kHzのリファレンス周波数となります。
また、74HC04を利用したVCOで10MHzを発振し、74HC390で1/100に分周し100kHzとします。
VCOの分周100kHzとTCXOの分周100kHzリファレンスが位相周波数比較器TC5081によって比較されます。
位相周波数比較器の出力は、ループフィルタで100kHzのクロック成分を除去した後、VCOの制御信号となります。
VCO
当初、PLL IC として代表的な 74HC4046 を使って、ICに内蔵されているVCOで発振させてみましたが、VCOの可変範囲が数メガもあり、広すぎることにより
( VCOの制御電圧に対するゲインが高すぎて )、ループフィルタの残留リップル
( 除去しきれない100kHzのクロック成分 ) の影響でジッタが発生し、C/Nが悪化してしまいました。
通常のPLL発振回路では、このジッタは問題にならないレベルなのでしょうが、本機のように1Hzのケタがピタリと動かないものを製作することは、難しくなります。
そこで、10.000MHzの水晶発振子を用いたVCOとし、可変範囲を1kHz程度としてVCOゲインを下げることにより、ジッタを低減させました。
ループフィルタ
本機では、周波数を可変させる訳ではありませんので、ループフィルタは単純なラグ型(遅れ位相)としています。
通常、PLLを用いたVFO回路などでは、周波数を可変させるので、可変範囲内の如何なる周波数でも位相余裕を確保出来る様に、ラグリード型(遅れ進み位相)のループフィルタが用いられますが、ラグリード型はクロック除去能力の点では不利になります。
また、本機の場合、ロックアップ時間も考慮する必要がないので、ループフィルタのカットオフ周波数は10Hzとして充分低く設定し、位相余裕を確保するとともに、100kHzのクロック成分に対して充分な減衰量を得ています。
RCを用いたフィルタは、ディケード-20dBで減衰しますので、100kHzのクロック成分に対しては、-80dBとなります。
これは、位相比較器の出力の100kHzクロックが5Vppとするとループフィルタの100kHz成分の出力は0.5mVppに減衰する計算になります。
実際にオシロでループフィルタの出力を観測してみましたが、100kHzのリプル成分は、全く観測されない程度まで減衰されていました。
TCXO
秋月電子通商で販売されている京セラ製TCXO(@\200)を用いています。
このTCXOは、エージング特性± 1ppm/年、温度特性±3ppm/-20℃~60℃と謳われているものです。
先に説明した秋月のバースト信号を利用した10MHz発生器キットを基準にして本機の周波数を比較してみたところ、なんとピッタリ10.000000MHzを発振してくれました。その周波数の正確さに驚いています。
私は、このTCXOを4個購入しましたが、残りの3個の周波数偏差も概ね良好で、1個が
+0.2ppm 、2個が -0.4ppm という結果でした。
このTCXOは、1個200円にもかかわらず、周波数基準として充分利用できるようで、なにかすごく得をしたような気分になりましたHi
10MHz基準周波数発生器の実験風景
調整法
(1)100Hzのケタまで信頼できる周波数カウンターを 10MHz OUT に接続し、基板上のスイッチSW1を
TEST 側にします。
(2)周波数が10.0000MHzとなるように( 100Hzのケタまでゼロとなるように ) トリマーコンデンサCT1、CT2
を調整します。
調整は、どちらのトリマーを回しても良く、とにかく10.0000MHzとなるようにします。
(3)次に基板上のスイッチSW1 を OPERATION 側にして、周波数が10.0000MHzであることを確認します。
(4)基板上のテストピンにデジボルを接続し、2.5V±0.2V となるようにトリマーコンデンサCT1またはCT2を調整します。
以上で調整は終わりです。
周波数カウンターの表示が1Hzのケタまでピタッと動かなければ正常です。
このとき、カウンターの表示は10.000000MHz には、なっていないかもしれませんが、(
1Hzのケタまでゼロには、なっていないかも知れませんが)、 これは周波数カウンター自信の誤差の為です。
秋月のTCXOは、実力、誤差1ppm以内が期待できそうですので ( 10MHzで1ppmは
10Hz )、10Hz以上の表示の差は、周波数カウンターの誤差と考えられます。
それからVCOの再現性が悪いかも知れないと思いましたので、手持ちのそれぞれメーカーの違う10.000MHzのクリスタル3個を使って、調整が取れるかどうか実験してみました。
その結果、3個のクリスタルとも一応、回路図の諸元で調整が取れる事を確認しましたが、もし調整が取れない場合は、CT1
、CT2 にパラにコンデンサを接続してみてください。
製作後記
基板上のテストピンにオシロを接続してVCO制御電圧を監視し、10MHz のクリスタルを手で触ると一瞬、カウンターの表示がパラッと変動しますが、すぐに元に戻ります。
その時、オシロの波形は、まるでバネの減衰振動のように震えながら振動が収まって行く様子が観測できます。PLLが一所懸命VCOの誤差を補正しようとしている様子が観測できて、結構面白いものです。
本機は、周波数カウンターの校正用として利用していますが、これをカウンターに内蔵して基準発振とすれば、高級測定器並の周波数精度とすることが出来るでしょう。