50MHz 10W リニアアンプの製作
このホームページで紹介している50MHz 1W SSB/CWトランシーバに接続して使用する出力10Wのリニアアンプを製作しました。
主な仕様
周波数帯 :50MHzバンド
ファイナル :2SC1972 シングル AB級動作
出 力 :10W (ドライブ入力0.6W、 電源電圧14.5V時)
消費電流 :1.7A (電源電圧14.5V時)
回路図
回路の概要
回路構成について
トランジスタを使用したリニアアンプで最も腐心するところは、入出力のマッチング回路だと思います。
とくに電源電圧十数ボルト程度で出力10W以上のものを作る場合、出力側のLCマッチング回路は、10倍以上のインピーダンス変換を行う必要があります。
ところが、このLCマッチング回路を構成するトリマコンデンサについて、その耐圧や通過電流がどの程度まで耐えてくれるのか、よく解りません。
いろいろ製作例など参考にしたところ、10W程度ならフィリップストリマでも使えるようではあるのですが、今ひとつ心配が残ります。
ということで、このリニアアンプは当初、LCマッチング回路を使用せず、広帯域アンプとして設計してみることにしました。
ところが、この広帯域アンプも一筋縄では行かず、特にベース入力側はATTとステップダウントランスを使用して親機と直結する回路方式としてみましたが、ドライプ電力のロスが大きく、親機からの1Wの電力では、10Wをドライブできませんでした。
そこで、回路設計の方針を改めて、入力側はLCマッチングによる狭帯域設計、出力側は、トリマコンデンサの耐圧の問題があるので、伝送線路トランスを使用した広帯域設計(後で説明しますが、結果的にこれも狭帯域となりましたが...)という変則的な回路構成とすることにしました。
それから、このリニアアンプで使用しているコイルは、全てトロイダルコアに巻いています。
トロイダルコアは、漏れ磁束が非常に少ない為、例えば本機のように4段のLPFに使用した場合、コイル同士が互いに結合することがありません。
従ってコイルを直角に配置したり、コイル間をシールドするなどの配慮が不要で、小型に組む事が出来ます。
ベース入力回路
入力のLCマッチング回路は、通過電力も1W以下なのでセラミックトリマで問題なく使用できます。
親機から見たVSWRが最小となるようにトリマを調整します。
なお、調整したトリマの容量値とコイルのインダクタンス値から、2SC1972を1Wでドライブした場合のベース入力インピーダンスは、だいたい5Ω程度であることが判りました。(スミスチャート上でリアクタンス値をプロットして求めました。)
また、ベースとグランド間に入っている27オームの抵抗ですが、これは受信時にリレーによってベース入力側がオープンとなり、このときベースのインピーダンスが上がってしまって異常発振することが有りましたので、その対策として挿入してあります。
(受信時もコレクタには、Vccが印加されているので発振してしまいます。)
コレクタ出力回路
出力のマッチングは、1:9の伝送線路トランスを使用していますので、コレクタ負荷は、50Ω÷9=5.5Ωとなります。
ところが、当初この伝送線路トランスが50MHzの周波数では、うまく動作せず、なかなか10Wの出力が得られませんでした。
どうもトランスの巻き線に寄生インダクタンスが存在するようです。
そこで、トランスとシリーズに入る結合コンデンサでこの寄生インダクタンスをキャンセルしています。
結合コンデンサが100pFの3パラとなっているのはこの為で、丁度300pFで寄生インダクタンスをキャンセル出来ました。
ところが、このキャンセル動作は、50MHzでしか成立しませんので結局、出力マッチング回路も狭帯域ということになってしまいました。(^^;
なお、この結合コンデンサには10W出力時、1.3Aの電流が流れますから必ず、数個パラとなるように接続します。
バイアス回路
バイアス電流(無入力時のコレクタ電流)は、300mAに設定しています。歪みを低減するため、少々大きめの値としました。
温度補償用のダイオードD1は、2SC1972に密着して取り付け、シリコングリースで熱結合させます。
ダイオードD1の順方向電圧を2SC1972のVBEより少し高くする必要がありますので、D1には約40mAの電流を流しています。
また、ダイオードD1側からベース方向へ流れる電流(ベース電流と27オームおよびボリュームに流れる電流)の合計は、40mA程度
となります。
従って、R1(56オーム)の電流は、合計80mAぐらいとなりますので、R1は1/2W以上のものが必要です。
ファイナルの効率
2SC1972のコレクタには、10W出力時(Vccは、14.5V)に1.6Aの電流が流れます。
従って、効率は、10W / ( 14.5V×1.6A ) = 0.43 ということで効率 43% となりました。
出力LPF
このアンプは、シングルのAB級動作のため、同じ出力でもプッシュプルに比べ、偶数次の高調波が大きくなります。
私の住む関西地方では、テレビの2チャンネルがNHK総合のため、2次の高調波には注意する必要があります。
そこで、このリニアアンプでは、高調波低減の為、定Kπ型のLPFを4段としています。
なお、LPFのQは、1で設計していますのでコンデンサの耐圧は、通常の50WVのものでOKです。
ただし、熱による帯域周波数の変化を起さないように、コンデンサは、CH特性のものを使用しています。
部品の実装
今回の製作では、プリント基板を使用せず、片面生基板をベタアースとして、その上に小さく切った基板をランドとして接着剤で貼り付けるやり方で、部品を空中配線で実装しています。
また、2SC1972をシャーシに直接取り付け、シャーシを放熱板と兼用しています。
入出力特性
リニアな特性が得られています。
入力0.6Wで出力が飽和しますので、親機の出力レベルをしっかり管理する必要があります。
出力波形
親機から2トーンジェネレータで変調した信号を入力した場合の出力波形を示します。
きれいな出力が得られています。