Update Sep. 27, 2007

    5球スーパーラジオ 修復記



数ヶ月前、とあることからJR3XTO 故 賀井智之OMの遺品である自作5球スーパーラジオを譲り受けたのですが、
私はあまり真空管に興味がなく、ラジオはガレージに放り込んだままにしていました。

私はOMとは全く面識がなかったのですが、先日、OMのホームページを見に行くと、
OMが私と同年代であること、
中学時代から無線の世界に入ったこと、
長くQRTされていたが近年再開局し1アマも取得されたこと、
ツーリングや移動運用もよくされていたこと(私はバイクには乗りませんが)、
など自分と共通点も多いことを知り、このラジオをこのまま捨てておく事は、こころざし半ばで急逝されたOMに申し訳ない気がしてきました。

そこで、このラジオを譲り受けたとき「電源入れてみたけど鳴らないよ」とのことだったのですが、ともかくこのラジオの復活にトライすることを決めました。

さて、私にとって真空管をいじくるのは、小学校六年の時にMT管の5球スーパーラジオのキットを組み立てて以来のことです。
真空管に関しては、教科書レベルの知識しかなく、実経験がありません。さて上手くいくでしょうか!


恐る恐る電源を入れる

電源を入れる前に配線チェックを行いましたが、配線は綺麗に処理され、半田付けも上手にされているようなので先ずは安心です。

使用されている部品のうち大部分は近年製造された部品のようですが、真空管、IFトランスは当時のもの(昭和30年頃?)のようです。
真空管はすべてST管で、「マツダ」なんていう印刷が入っています。
また、ブロック型ケミコンも相当古そうです。

しかし古そうなコンデンサですが、ずっと使われていたものではなく在庫品だったろうと推測されます。
なので容量抜けはあるかも知れませんが多分大丈夫だろうと判断して、取り合えず電源を入れてみることにしました。

 頂いた自作5球スーパー

 シャーシ裏側


恐る恐る電源スイッチを入れてしばらくするとヒータが灯りました。が、全くウンともスンとも音が出ません。
やっぱりダメかと一瞬思ったのですが、ヒョッとして、これってアンテナが無いと受からないのでは?と気づき、取り合えず7メガのアンテナを繋いでみました。

そうしてもう一度電源を入れてバリコンを回すと、オォ~っ!感度は悪いながらNHKの放送が聞こえるではありませんか!!
中波ラジオといえばバーアンテナ内蔵が当たり前なので、ついうっかりしてました。
「鳴らないよ」といった人も、もしかするとアンテナを繋がなかったのかも知れません。


 ST管のヒーターが灯る。左から12F、42、DH3A 

( ST管ってあまり熱くならないんですネ。知りませんでした。 MT管は、メッチャ熱く、電源を切っても暫くは触れなかったような記憶がありますHi)



回路図を起こす

このラジオを頂いたときに回路図が無かったため、実物の配線をトレースして回路図を起こしました。
回路図中の部品番号は、私が便宜的にふったものです。また、回路図中のC13~C16は私が後で追加した部品です。
なお、回路図エディタBsche用の真空管ライブラリは7L3AXT近藤さんのHP ( http://www005.upp.so-net.ne.jp/y_kondo/DOWNLOAD.HTM ) で公開されているものに若干手を加えて使用させて頂きました。






調整にトライ

さて、ラジオが動作していることは判りましたが、どうも感度が悪いようです。
そこで、ラジオの調整をしてみることにしました。
先ず、中波帯の中央付近の放送である朝日放送(1008kHz)を受信して、ミキサー段6WC5のカソードの局発発振周波数を周波数カウンターで測定してみました。
発振周波数に影響を与えないように測定にはオシロ用の10:1プローブを使用し、さらにカソードを直接プローブで触らずに、10pFのコンデンサを介して測定を行いました。

局発の測定結果は、1490kHz付近でした。本来の周波数より30kHz程度高いようです。(1008+455=1463kHzが正解)
また、トラッキングに関しては中波帯の一番下の放送と一番上の放送でも本来の周波数からのズレは同じように30kHz程度です。なのでトラッキングとしては上手くいっているようです。

そこで、パディングコンデンサVC2を回して、局発の周波数が受信波より455kHz高くなるように再調整しました。
朝日放送を受信しながら、局発が1463kHzとなるようにパディングコンデンサを回してゆくと、今度は放送が全く受信できなくなってしまいました。
IFトランスも30kHz高いところに調整されているようです。

 パディングコンデンサ。TRIOの刻印がある。

そこで、AGCラインのC4にオシロをつなぎ、IFトランスの上下にあるコア調整ネジを回してゆくとググッと感度が上がってきます。
やはり、調整がズレていたために感度が悪かったようです。オシロを見ながらAGC電圧が最大となる点にIFトランスのコアを合わて調整終了です。


 IFトランスとシールドケース付きの6C6 (球の頭にG1端子が出ている)

( ちなみに6C6のシールドケースを外すと異常発振しまくりで、全く受信出来なくなりました。シールドケースの効果大といったところですが、455kHzの増幅程度でこんなに発振するとは...)



電灯線アンテナ

次にアンテナが無いと受信できないのは不便なので、電灯線アンテナを利用することにしました。
回路図中のC13~C16の390pF4個直列になっているのがこの部分です。
これにより、ラジオの電源をコンセントをつなぐと自動的に電灯線アンテナが利用できるようなります。
なお、コンデンサを4個直列にしている理由は、コンデンサの耐圧を稼ぐためと、万が一コンデンサがショート故障を起こしても感電の危険が無いようにするためです。
390pF4個直列なので、全体で約100pFで電灯線に繋がることになります。

この電灯線アンテナのおかげで、外付けのアンテナ無しで関西のラジオ局全てが受信できるようになりました。
「電灯線アンテナ」 とは如何にも時代がかった名称ですが、なかなか威力があります。子供の頃、ゲルマラジオをコンセントの片側に差込み、良く聞こえる!と喜んだことを思い出します。(しかもコンデンサ無しで直接コンセントに接続してました!)

 C13 ~ C16 でアンテナ端子と電源1次側をつなぐ


なお、回路図中、IF増幅段の真空管に6C6というシャープカットオフ管が使用されています。
本来ならここには6D6というリモートカットオフ管(バリミュー管)が使用されるべきところのようです。
6D6の入手が難しかったのでしょうか。
そのためか、AGCの動作範囲はー1V~ー5Vまで変化するのですが、チョッとAGCの効きが悪いように感じます。


各部動作波形の観測

次にオシロで測定してみた各部の動作波形を示します。





ミキサー段の6WC5の局発発振波形(カソード波形)です。
きれいな正弦波で発振しています。

 6WC5 カソード波形 ( 1V / div )





ミキサー段の6WC5のプレート出力波形です。
局発の波形に受信波形が混合されて歪んだ波形になっています。


6WC5 プレート波形 ( 2V / div )





IF増幅段の6C6のプレート出力波形です。
前段の歪んだミキサー出力から455kHz成分だけがIFトランスで取り出され、増幅された波形です。(前に示したミキサーの波形より時間軸を縮めてあるので、正弦波は見えません)
振幅変調されて音声に応じて振幅が変化しています。

 6C6 プレート波形 ( 2V / div )





検波/音声増幅段の6ZDH3Aのプレート出力波形です。
音声が復調されています。


 6ZDH3A プレート波形 ( 2V / div )





終段の音声電力増幅段の42のプレート出力波形です。

 42 プレート波形 ( 50 V / div )





無信号時の42のプレート出力波形です。
電源リップルが乗っています。
そのため、スピーカから若干のハム音が聞こえますが、気に掛かるほどの大きさでは有りません。
周波数特性が悪かった(と想像される)昔のスピーカならこの程度のリップルは聞こえなかったのかも?


 無信号時の 42 プレート波形 ( 50 V / div )





箱を作る

さてここまできたら、このラジオをケースに入れたくなってきました。
そこで、板厚9mmの木の合板を利用してラジオ用の箱を作ってみました。
久しぶりの木工細工です。板の切断は、板を購入したホームセンターにお願いしましたが、スピーカの穴などは自分で開けました。
ダイアルには小型のバーニアを使用し、出来るだけアンティークな雰囲気が出るように黒っぽいニスを塗って仕上げています。
箱の大きさは、幅350mm、高さ250mm、奥行き250mmですが、このサイズで結構机の上がいっぱいになるくらいの大きさです。


 ニスを塗ってアンティークな仕上がりに


箱の裏側の写真です。
スピーカには大型のものを使用し、箱の大きさも大きいので、今のラジオには無い柔らかい、いい音が出ています。

 大型のスピーカを内蔵。いい音が出る。



居間に置いて使っています。図体はデカいですが、アンティークなデザインの家具のようで、気に入っています。

このたびは、ひょんなことから真空管回路に触れる機会ができ、いろいろサプライズはありましたが、楽しく、良い経験をさせてもらえました。
亡くなられたOMもきっと喜んでおられることでしょう。OMのご冥福をお祈りいたします。


 居間に設置した5球スーパー