容量計の製作


コンデンサの容量を測定する容量計を製作しました。簡単な回路で結構、高精度に測定することが出来ましたので、紹介します。


主な仕様

* 被測定コンデンサは、容量計本体のゼロプレッシャICソケットに挿入するか、またはBNC端子に接続した測定ケーブルにて測定

* 測定範囲 0 ~ 850 pF   (ただし、測定ケーブルを使用する場合、ケーブルの容量成分だけ測定範囲は狭くなります。)

* PIC マイコン16F873-20/SP使用。表示はLCD上に小数点1桁まで表示。

* ボタン一発ゼロ点調整機能。測定ケーブルなどの不要な容量成分をプッシュボタンを一度押すことで、キャンセル出来ます。

* 電源は、内蔵 単三電池6本を使用。消費電流 約10mA


1.測定原理と回路について

容量の測定方法として、例えばコイルと組み合わせてその共振周波数を測定する方法や一定周波数の交流電流をコンデンサに流して、その電流、電圧値からリアクタンス即ち容量を求める方法などが考えられますが、いずれも精度良く計れる回路を実現するには、チョッと難しそうです。

いろいろ、方法を考えていたところ、JA9TTT 加藤さんのホームページ JA9TTT's Radio Experimenter's site http://ja9ttt.homedns.org/ に Simple C-Meter として、コンデンサの充電時間を測定することにより容量値を得る回路が紹介されており、簡単なわりに結構、精度良く計れるようなので、この方法を採用させて頂きました。

また、デザイン的にも似たようなものにさせてもらいましたが、やはりこの形が一番使い勝手が良いと思います。
コンデンサの測定端子には、秋月で売っている安いゼロプレッシャICソケットを使用しています。コンデンサの抜き差しに力が要らないので、コンデンサの足が曲がることもなく、FBです。

加藤さんの製作例では、表示部を除き、全てアナログ回路で構成されていますが、私はPICマイコンを使用して、積分、ゼロ点調整、測定のリニアリティ補正など、ほとんどの部分をソフトウェアで実現しました。




測定原理の概略

回路図を下に示します。


本機では、ワンショットマルチ74HC123 を使用しています。
PICマイコンからの周期690uSのトリガパルス(TRIG)を受けて、被測定コンデンサの容量値に応じてHigh期間の長さが変わるパルス(CCP1)が74HC123から出力されます。

74HC123に与えるトリガパルス(TRIG)は、精度を必要としませんので、PIC内部で生成したラフなパルスです。

PICマイコン(PIC16F873-20/SP)では、キャプチャ機能を利用して、常にパルス(CCP1)の長さを測定してそれを容量値に変換していますが、パルス(CCP1)にはジッタがあるので、ジッタをキャンセルする為に500回の計測を行い、その平均値を求めてからLCDに表示するようにしています。
従って、1回の計測が690uSで、500回計測してから表示するので、690uS X 500 ≒ 0.35秒毎に表示が更新されます。


また、容量値とCCP1のパルス幅との関係は、下のグラフのようになりました。



グラフでは、容量とパルス幅はリニアに変化しているように見えますが、実は微妙に非線形で、2次成分を含んでおり、容量値の上昇とともにグラフの傾きが段々寝てくる特性になっています。
従って、このままパルス幅を容量値に置き換えると容量値が大きくなるほど誤差が増えることになります。
実験では、400pF 程度で5%くらいの誤差が生じてしまいました。

そこで、ソフトウェアでこの2次成分を補正し、容量値とパルス幅の関係がリニアとなるようにしてから、500回の平均値を取っています。



ここで、もし容量値とパルス幅の関係がリニアであれば、

     容量値 = K1 X パルス幅

     ただし、K1は、1次ゲイン補正係数

という演算をやれば良いだけです。

ところが、74HC123では、2次成分で非線形になっているので、

     容量値 = K1 X パルス幅 + K2 X パルス幅の自乗

     ただし、K1は、1次ゲイン補正係数、 K2は、2次ゲイン補正係数

という演算をプログラムで実行させて、リニア補正を行っています。

(ゲイン補正係数の値は、ボリュームの電圧値を PIC の A/Dコンバータを使用して、プログラム中に取り込みます。)

また、メーカによるICの特性バラツキをみるために3社(東芝、日立、もう1社はメーカ名不明)の74HC123を使用して実験してみたのですが、1次成分と2次成分のゲイン補正係数だけを調整してやれば、どのメーカのICでも、ほぼリニア補正出来ることが確認できました。


この補正により、全測定範囲に渡って、概ね1% 以内の誤差範囲とすることが出来ました。(精度を保証するものでは有りません。また小数点1桁しか表示しませんので、小容量域では、誤差が 1% を超えます。)

回路の消費電流は、約10mAとなりました。単三乾電池6本を使用していますが、電流が少ないので 006P 9V乾電池でもOKと思います。


回路図


内部写真

 LCDは、秋月で売っている16文字2行表示のもの。単三乾電池6本を使用します。

 ユニバーサル基板のランド側(半田面)に部品を実装しています。
                                             基板の反対側に測定端子用のゼロプレッシャICソケットを取り付けています。



上の写真のように測定端子用のゼロプレッシャICソケット や 測定ケーブル用のBNCコネクタ と ワンショットマルチ74HC123は、出来るだけ最短距離で取り付けます。
この距離が長いと浮遊容量が増えて、その分、測定範囲が狭くなるだけでなく、ノイズの影響でワンショットマルチの出力パルスにジッタが増えて測定誤差の要因になります。










2.調整方法

調整には、容量が正確に判っている100 pF と 560 pFのコンデンサが必要です。
容量が正確に判らない場合は、コンデンサの表示どおりの値に調整するしか有りませんが、当然のこととして精度は、そのコンデンサの誤差に依存してしまいます。


(1)先ず、本機の電源スイッチを入れます。
   次に BRIGHTNESS 調整ボリュームを回して、LCDの表示が見える位置にします。(ボリュームは、GND側に偏った位置に来ます。概ね0.7V付近です。)
   すると ” Over Range ” と表示されるようになります。

(2)次にZERO ADJのプッシュスイッチを押すと ” .0  pF ” または、” - .0  pF ”と表示されます。

 電源スイッチを入れると ” Over Range ” と表示される。



 ZERO ADJを押すと ” .0  pF ” または、” - .0  pF ”と表示される。


(3)正確に容量が判っている100pFのコンデンサを測定端子のゼロプレッシャICソケットに挿入し、表示がそのコンデンサの値(例えば98.7pF)となるようにボリューム” LOW CORRECT ” を調整する。

(4)100pFのコンデンサを測定端子から取り外して、ZERO ADJボタンを押す。

(5)正確に容量が判っている560pFのコンデンサを測定端子のゼロプレッシャICソケットに挿入し、表示がそのコンデンサの値(例えば551.7pF)となるようにボリューム” HIGH CORRECT ” を調整する。

(6)560pFのコンデンサを測定端子から取り外して、ZERO ADJボタンを押す。

(7)上記(3)項~(6)項を2~3回繰り返して調整し、100pF でも560pFでも正確にコンデンサの値が表示されるようにする。

以上で調整は、終了です。


注1:LOW CORRECT ボリュームは、リニア補正の1次成分のゲイン補正係数を調整するものです。
    HIGH CORRECT ボリュームは、リニア補正の2次成分のゲイン補正係数を調整するものです。


注2:大きいほうの校正用のコンデンサ(560pF)は、必ずしもこの値である必要はありません。470pFあるいは、680pFでもOKです。
   小さいほうの校正用のコンデンサ(100pF)は、出来るだけこの値を使用して下さい。どうしても無理なら82pFあるいは120pFでも、なんとかなると思います。









3.使用方法

測定したいコンデンサを測定端子のゼロプレッシャICソケットに挿入するか、BNC端子からシールド線の測定ケーブルで接続します。
測定前に(コンデンサを接続する前に)必ずZERO ADJボタンを押してゼロ点調整をします。
正確な測定のためには、測定ケーブルを使用せずに、本体のゼロプレッシャICソケットで測定するようにします。(測定にケーブルを使用するとノイズの影響でジッタが増え、誤差の原因となります。)

測定ケーブルを使用する時は、ケーブルを接続した状態でゼロ点調整を行い、ケーブルの容量をキャンセルします。
測定ケーブルの容量の大きさには制限が有りませんが、正確な測定には出来るだけ短いケーブルを使用して下さい。また、ケーブルには同軸などのシールド線を使用してノイズの影響を受けないようにします。


測定範囲は、概ね0 ~ 850pF ですが、測定ケーブルを使用するとケーブルの容量分だけ測定範囲が狭くなります。
測定範囲を超えると ” Over Range ”
と表示されます。(電源ON直後も” Over Range ”と表示されます。)


 セラミックコンデンサ 220pF ( CH級 許容差5% )を測定中。


温度特性は良好で、経時変化もほとんど無いので、ゼロ点調整は頻繁に行う必要は有りません。
また、計測は、500回の平均値を表示しているので、小数点1桁目の表示も時折、パラッと動く程度で安定しています。




4.ソフトウェアのダウンロード

ソフトウェアは、CCS社のCコンパイラ CCS-C PCM を使用して、C言語で作成しています。

ソフトウェアは、以下のページからダウンロードすることが出来ます。


ソフトウェアダウンロードのページ