静電結合アースによるモービルアンテナ基台の製作

Feb. 25th, 2022
UPDATE : Sep.  3rd, 2022
HF帯のモービルアンテナは 1/4ラムダで動作するため、アンテナ基台は必ずクルマのボディーへアースする必要があります。
このアース、出来るだけ最短距離で配線する必要があるうえ、クルマのボディーへイモネジなどで食い込ませるとそこからサビが発生します。
アンテナメーカーからはマグネットシートを利用した静電結合によるアンテナ基台用のアースが販売されていますが
構造が簡単な割に結構高価なものです。
そこで、もっと廉価で自作できないかと思い、実験を行いました。
今回の実験では、マグネットシートは使用せず、直接クルマのボディーにアルミテープを貼るという方法で行い、
良い結果が出ましたので報告します。

Web を検索するとマグネットシートを使用して静電結合アースを自作されているサイトが沢山見つかります。
だいたいの作り方としては、マグネットシートにアルミあるいは銅のテープを貼ってクルマのボディーに磁力でくっつけ、アンテナ基台までは銅の編組線で接続するようなやり方です。
ただ、ここで気になるのは、
    *銅の編組線とアルミテープの接続点の接触抵抗が長期的に低く保てるのか?
    *編組線を使用すると50メガ帯など周波数の高いバンドで編組線のインダクタンス分が影響して VSWR が悪くなるのでは?
    *マグネットシート上にテープを重ね貼りするとテープ同士の接触抵抗は大丈夫か?
    *アルミと銅の接触は、間に水分が入ったら電気分解するのでは?(ボルタの電池と同じ)
など、いろいろ疑問が沸いてきます。アンテナ基台は、常に風雨にさらされるので、耐候性も考慮しておかないといけません。

そこで今回の製作では、電気分解の懸念が無いように材料は全てアルミとし、接触抵抗も生じないようにアンテナ基台のコネクタ部分からアルミテープを貼り始めて、そのままクルマのボディーまで伸ばして貼ってみました。(クルマは軽の箱型商用車)
コネクタのナットは、アルミテープを挟み込むように締め付けます。これで接触抵抗が生じる部分は、このナットの締め付け部分のみとなります。
また、アルミテープの幅は編組線よりも広いので、生じるインダクタンスを小さくできます。

注意:アンテナ基台自体はアルミ製ですが、これに直接アルミテープを貼ってもテープのノリの成分が間に入るので電気的に上手く接触しません。
アルミテープは必ずアンテナ基台のコネクタ部分から貼り始めます。



















アンテナ基台部分。

















アンテナ基台は、3mm厚のアルミ板。
ステンのUボルトでルーフキャリアに固定。

















基台中央のコネクタ部からクルマのルーフまでアルミテープを貼る。

性能評価

先ず、アルミテープをクルマのボディーに直接貼った場合、どの程度の容量が生じるのか、測定してみました。
使用するアルミテープは、NITTO製の幅100mm、厚さ0.05mmのものです。








  幅 100 mm のアルミテープを使用
車のリアサイドのあたりにアルミテープ250mmを貼って容量を測定してみます。








リアサイドにアルミテープ 250mm を貼って容量を測定








アルミテープ長さ 250mm の容量は 5.88 nF
アルミテープ長さ 250mm の場合、クルマのボディーとの間の容量は 5.88 nF (5880 pF) となりました。
この値は、7MHz で 4Ω、3.5MHz で 8 Ωのリアクタンスとなるので 7MHz では静電結合アースとして使用できそうですが、3.5MHz では VSWR が少し悪くなる可能性があります。

そこで、次にアルミテープの長さを 500mm にして測定してみました。








リアサイドにアルミテープ 500mm を貼って容量を測定








アルミテープ長さ 500mm の容量は 11.31 nF
アルミテープ長さ 500mm の場合、クルマのボディーとの間の容量は 11.31 nF (11310 pF) となりました。容量は、およそテープの長さに比例するようです。
この値は、7MHz で 2Ω、3.5MHz でも 4 Ωのリアクタンスなので、充分 3.5MHz でも使えそうです。

それにしてもわずか 250mm 程度の長さで 5000pF 以上の容量が得られるのにはチョッと驚きでした。


それでは、ルーフに貼り付ける部分の長さが 500mm としたアルミテープで VSWR を測定してみます。実装するアンテナは、モービル用のホイップです。









アンテナ基台に取付けたモービルホイップ
(7MHz コメット製 HA07 長さ1.1m)


VSWR の測定結果

測定器:アンテナアナライザー MFJ-259B (アンテナ基台から長さ 15m の同軸先端にて測定)






3.5MHz帯モービルホイップ
コメット製 HA035







7MHz帯モービルホイップ
コメット製 HA07






21MHz帯モービルホイップ
第一電波工業製 DP-EL15






50/144/430MHz帯モービルホイップ
第一電波工業製 SGM-911
3.5MHz でも VSWR は 1.0 まで落ちています。
50MHz の VSWR も1.2 まで下がっていますが、下がるポイントが2か所あります。静電結合アースの影響なのかは定かではありませんが、50MHz ~ 53MHz で VSWR が 1.5 以下に収まっています。
なお、144MHz と 430MHz はノンラジアルで動作し、グラフは示しませんが、いずれのバンドも VSWR 1.2 以下になっています。

以上のようにアルミテープを貼るだけで簡単にHF帯用のアンテナ基台が作れました。
まだ、長期の運用はしていないので、アルミテープの耐久性、耐候性、それにクルマのボディー塗装に対する影響などを今後観察していきたいと思っています。
それから、FT-817 出力 5ワット での運用では、このアルミテープのアンテナ基台は問題なく使用できていますが、50ワットのハイパワーでは確認していません。
ただ、アンテナ基台部分は、ローインピーダンスの電流腹なのでアルミテープには高電圧は印可されないため、50ワットでも耐圧的には大丈夫だろうと思っています。















FT-817 で運用
JARD による新スプリアス規格確認保証済


近くの岡のうえに移動して運用してみました。
ここは、結構見晴らしの良い高台で、西から北方向には遮るものがありません。
7MHz の長さ1.1m しかないモービルホイップ HA07 から CW 5ワットで国内局を呼んでみると、相手の局長さんは少し取り難そうですが大体応答があります。
よくまぁ、こんな短いアンテナで飛んでいくもんだなぁ!とチョッと感動しています。


追記 Sep. 3rd, 2022

モービルアンテナ基台の設置から半年が経ちましたので、静電結合アースのアルミテープがクルマのボディー塗装に悪影響を与えていないか、確認してみました。
















 貼り付けて半年経過したアルミテープ
結構、強力に貼り付いており、剥がすのに力が要ります。塗装を剥がさないようにユックリ慎重に作業しました。
















 アルミテープをユックリ剥がしていく
アルミテープを全部剥がしました。若干、アルミテープの糊残りがありますが、クルマの塗装には影響は無いようです。
















 少し糊残りがありますが、塗装はOKそうです。
ワックスで拭くと糊がきれいに取れました。塗装には、全く影響無いようです。
















 ワックスで拭くときれいになりました。



アルミテープによる静電結合アースは、耐候性も充分なようです。ボディー塗装への影響もあまり無いようです。
ただ、濃い色のクルマなどは、光沢に影響が出るかも知れません。
今回試したクルマは塗装にそれほど気を使わない商用車なので、アルミテープをベッタリ貼れましたが、高級車の場合は、アルミテープを貼るのはチョッと気がひけますよネ。
SWR が悪くなるかも知れませんが、ドアの内側など見えない場所に貼るのが無難なように思います。いずれにしても自己責任でお願いします。