E級プッシュプルアンプの実験

UPDATE : Jan. 12th 2024
以前、E級シングルアンプの実験を報告しました。
今回は、E級プッシュプルアンプを実験してみたところ
12Vで7メガ20ワット程度の出力を得ることができました。
このページでは、実験結果とその動作原理を解説します。
e-class_push-pull_amp

今回は、7MHz QRP 1ワット出力の CW トランシーバーに接続して、電源電圧12V で出力20ワット程度を得るE級プッシュプルアンプを実験してみました。
E級なので発熱は少なく、20mm x 30mm 程度の小さな基板の銅面を放熱板にした程度のもので充分使えそうです。
実験結果などを以下に報告します。(E級アンプはリニアな増幅動作をしませんので SSB など振幅変調波には使用できません)

実験した回路を下記に示します。

class-e-push-pull-amp
e-class_push-pull_ampE級プッシュプルアンプの実験風景


使用した部品について
Q1, Q2 は表面実装タイプ100V 5AのMOS-FET ロームのRD3P050SN です。
このFETは、Ciss 530pF、Qg 14nC なので高速でゲートをドライブできます。

L3 はかなり大きな電流が流れるので筒形のチョークコイルで4.8A流せるものを使用しました。
インダクタンス値は、L1 + L2 の10倍以上あれば良いので、特に 33 uH にこだわる必要は無く、入手できる値の物としました。

L1 ~ L6 はインダクタンス値の精度が重要なのでカーボニル鉄系のトロイダルコアT50#2を使用しました。
T50#2は、通過電力約60ワット程度まで使用可能です。

T1 と T2 は、電力伝達用のRFトランスなので、インダクタンス値を得るためフェライト材のトロイダルコアFT50#61を使用しました。
電力伝達を目的とするトランスの場合、インダクタンス値が大きいほど励磁電流が減り、ロスを小さくできます。
下図は、教科書によく出てくるトランスの等価回路です。
インダクタンス kL が大きいほど、励磁電流 I1 が小さくなり、出力電流 Iin - I1 が増加します。
インダクタンスの目安としては、負荷の10倍程度のリアクタンスとなるように巻き数を決めたら良いと思います。
trans
漏洩インダクタンス(上図の (1-k) L )を減らすため、T1はバイファイラ巻き、T2は、トリファイラ巻きとします。
漏洩インダクタンスは、2次側の負荷に対してシリーズに入りますので、トランス1次側から見た場合にその分、2次側負荷がインダクティブになり電力伝達の邪魔になります。
T2には、漏洩インダクタンスを減らし、結合度を増やすためにメガネコアが良く使われますが、近頃は入手が難しいようなので、今回はトロイダルコアで製作しました。
トリファイラ巻きとすれば漏洩インダクタンスもそこそこ減らせることができ、メガネコアと同等程度のトランスが製作できました。

t2トリファイラ巻きで製作したT2

C3は、T2の1次側の漏洩インダクタンスをキャンセルするために挿入しています。
これによりT2の1次側のインピーダンスは、7MHz でほぼ純抵抗となるので出力電力をアップさせることができました。

下図は、nanoVNA で測定した C3が無い場合の T2 のインピーダンス軌跡です。
T2 の2次側には、51Ωの抵抗を負荷として接続してあります。

t2_smith-chart1
t2_smith-chart


T2 の軌跡は、7MHz付近でインダクティブ 2.65Ω となっており、急に折れ曲がっています。
折れ曲がっている原因は、この周波数付近から漏洩インダクタンスによる自己共振周波数に向かってインダクタンス値が上がっていくためです。
この後、周波数の上昇とともにインピーダンス軌跡が右回転して弧を描き、自己共振周波数で抵抗軸に交わります。


7MHz付近でインダクティブなので、これを打ち消すために C3 を挿入しました。
t2_smith-chart2
下図が C3 を挿入したときのインピーダンス軌跡です。
7MHzで上手くインダクタンスを打ち消して純抵抗とすることが出来ています。
このときの抵抗値は、13.3 Ωです。1:2 トランスなので2次側に51Ω接続した場合の理論値 12.75Ωとほぼ合致した値となっています。

t2_smith-chart




回路には、1kV耐圧のセラミックコンデンサ470pF を使用しました。
E級アンプ(シングル・プッシュプルどちらも)のトランジスタのドレイン電圧は、電源電圧の約4倍程度まで上昇します。
今回、電源電圧の上限を 15V としたので、ドレイン電圧は約 60Vピークになります。

60Vピークであれば、通常の50Vワーキングボルトのディスクセラミックコンデンサでもなんとか使えますが、E級アンプの負荷がショートするとドレイン電圧が跳ね上がりますので念のため1kV品を使用しました。
(50Vワーキングボルトのものは、定格50Vということで、実際にはDC 200V程度の耐圧があります)

ただし、高耐圧のセラミックコンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が大きく、今回使用した1kV 470pF のものは、ESR が 2Ω もあります。(通常のセラコンは数ミリΩです)
従って、これをE級アンプに使用すると回路ロスが増え、その分、効率が低下してしまいます。
今回は、信頼性を優先し、損失が増えることを承知で高耐圧セラコンを使用しました。


Q3, Q4 は、Q1, Q2 のゲートチャージを急速に引き抜き、Q1, Q2 の ON→OFF 動作を早くします。
また、T1 2次側の片側を接地しますので、その分、低いドライブ電圧で Q1, Q2 を ON させることができます。
接続するトランシーバに対するVSWRを改善するため、入力部に-6dBのパッドを挿入してあるのでトランシーバ側からの入力電力が 1/4になりますが、実験では、0.3ワットの入力電力でも上手くE級アンプが動作してくれました。


センタータップから電源を供給する T2 の効果により、E級アンプには電源電圧の2倍の電圧が供給されるようになります。
E級アンプは電源電圧の2乗で出力が増加しますので、E級プッシュプルアンプは、シングルに比べ理論的には4倍の出力を得ます。
下図は、実測した Vdd 16V 時の T2 のセンタータップ電圧です。16Vを中心に±16V 電圧が振れています。

t2_center-tap_16v T2 センタータップ電圧




実験結果 (出力・効率・スプリアス)
7メガ1ワット CW の信号源として FT-817 を使用して E級プッシュプルアンプの出力と効率を測定しました。

output_efficiency

電源電圧 12 V で約 20ワットの出力を得ています。
また、この時の効率は、約80% となりました。もう少し効率が上がって欲しいところです。
耐圧1kV品のセラミックコンデンサの ESR (等価直列抵抗) が悪く、2Ω程度もあることが原因と思われます。
また、L1, L2, T2 の巻き線の太さがφ0.5なので、もう少し太い線で巻くと損失を減らせるかも知れません。


Q1, Q2 の放熱に関しては、ドレインラインの配線を兼ねて片面銅貼り基板を 20mm x 30mm 程度に切ったものを放熱板として使いました。
こんな小さな放熱板かかわらず、発熱は、少し温かく感じる程度で済んでいます。


下図は、周波数を可変した場合の出力と効率です。
f-response.png

周波数特性は、かなりブロードなようですが、周波数が低いほど出力は少しアップします。
もう少し、フライホイール回路の共振周波数を上げれば7メガ帯での出力が上がりそうですが、L1, L2 の巻き数をもう1ターン減らすと周波数が上がりすぎてしまいます。
コンデンサ C1, C2 も細かい値を選べないので、一応、この共振周波数で良しとしておきます。


E級プッシュプルアンプでは、フライホイール回路の共振周波数 fo をスイッチング周波数 fsw よりも高く設定します。

実験基板の電源を切った状態で C2 をショート、 T2 の1次側もショートして、L2 にディップメーターを結合してフライホイール回路の共振周波数を測定してみました。
トロイダルコアは漏れ磁束が少ないので、ディップメーターとは1ターンループを介して結合させます。
近ごろは、nanoVNA などの便利なツールがありますが、こういったシーンではまだまだディップメーターの出番があります。

dip-meter.jpg ディップメーターでフライホイール回路の共振周波数を測定

測定した共振周波数は、9.4MHz となりました。
L1 + L2 が 0.32uH, C1 の実測値は 450pF 程度なので Q1 のドレイン容量 Coss が約 450pF のとき 9.4MHzに共振します。
Coss は、ドレイン電圧に大きく依存し、実際の動作中の Coss は、もっと小さくなると思われ、実効Cossを仮に200pFとすると動作中の共振周波数は 11MHz くらいと推定されます。
11MHz とは、スイッチング周波数 7MHz に対して 1.57 倍になり、思った以上に高い共振周波数です。

共振周波数が11MHzとしたとき、フライホイール回路のQLは、高耐圧セラミックコンデンサの等価直列抵抗Cesr(=2Ω)を考慮すると

Network QL = 2πfo(L1 + L2) / (RL' + Cesr) = 22.1 / (13.3 + 2) = 1.44

となります。このようにQが低いので、先に示したように広い周波数可変範囲で動作してくれるのだと思います。


共振周波数が高い方へズレているのか、低い方へズレているのかは、ドレイン電圧 Vds 波形を観測すれば察しがつきます。

fo_high.png 共振周波数が高い場合の Vds 波形

fo_low.png 共振周波数が低い場合の Vds 波形

ただし、共振周波数が大きくズレているとグチャグチャの変な波形になり、波形だけではどちらにズレているのか判別できません。
上図のような波形は、ある程度、共振周波数を追い込んでゆかないと観測出来ません。


Vds 波形

vds_load Vds 波形 (Vdd=15V)

Vdd 15V においてドレイン電圧 Vds は、63V になっています。
波形のすそ野は、ユックリ立上っており、ZVS 動作になっています。

vgs_1w_off.bmp CH1 Vds , CH2 Vgs

CH2 がゲートの駆動波形 Vgs です。Vgs 2V くらいでゲートが ON/OFF しています。


下図は、このときのフライホイール電流です。
±約2.8A の電流が流れていますが Q1, Q2 は 5A のFET なので充分な余裕があります。

i-cir Vdd=15[V]時のフライホイール電流 ( x10 [A] / div )


T2 には、フェライト材のトロイダルコア FT50#61 を使用していますが、このコアの最大起磁力は、仕様書によると 14.3 [AT] となっています。
T2 に流せる電流は、トリファイラ巻きで6ターン巻いているので 14.3 / 6 = 2.38 [A] が磁束が飽和しない最大電流ということになります。
上図から T2 に流れている電流のピークは、2.88 [A] なので少しオーバーしています。FT50#61 を使った場合15Vで30ワット出力が最大のようです。
この状態で10分間連続出力してみると T2 のコアがかなり発熱します。
磁気飽和ギリギリの電流が流れるとコアの鉄損のため発熱するためです。
発熱が増えると磁束が減少してさらに電流が増えて発熱し、最終的にコアのキュリー温度に達すると磁束を失い大電流が流れて Q1, Q2 が破壊に至ることが考えられますが15Vで30ワットでは、まだ破壊に至るほどの発熱では無いようです。

フライホイール電流波形もピークで急に立ち上がったりしておらず、本当の磁気飽和にはもう少し余裕がありそうです。
(本当に磁気飽和するとコア内の磁束が無くなり、電流のピークが異常に増えます)
14.3[AT]という値は、少し余裕のある値と思われます。

T02 の温度上昇を測定してみました。
実験基板をダンボールの箱に入れ 50Ωダミーロードを接続、Vdd=15V で短点連続(20WPM) 3時間での温度上昇は
⊿T=50℃ (コアの表面と箱の外側の室温との温度差、クロメルアルメル熱電対で測定) でした。
これなら、夏場の暑いときでも 90℃ 以下に収まりそうです。使用しているポリウレタン線(UEW)の耐熱もE種なので 120℃ までOKです。
実際の運用では短点を3時間も連続することはありませんから、トロイダルコアFT50#61は、ギリギリ30ワットの使用に耐えてくれそうです。

それからトリファイラ巻きしたとき、ポリウレタン線(UEW)の絶縁耐圧が気になりますが、JIS のエナメル線の試験規格を見ると最も低い耐圧グレードのものでも高温時に1000V以上あるようです。
(使用しているUEWは、一般的に入手できる皮膜厚み2種のものなので、耐圧グレードも最も低いものになると思います。)



負荷端(50Ωダミーロードの接続されている出力端)をオープンするとLPFが3段なので T2 の2次側はショートに近い状態となります。
T2 の2次側がショートされるとフライホイール回路の Q が上がり、フライホイール電流が増加して、Vds が高くなります。
下図は、負荷端をオープンした場合の Vds の波形です。

i-cir Vds 波形 (Vdd=15V 負荷オープン)

Vdsが84V まで跳ね上がっています。


下図は、このときのフライホイール電流です。
±約4.4A の電流が流れています。
Id max 5A の Q1, Q2 は 負荷オープン状態でも少し余裕があります。アンテナの接触不良などでオープン状態となったとしても一応大丈夫そうです。

i-cir 負荷オープン時のフライホイール電流 ( x10 [A] / div )

ただ、Vdd=15[V] 負荷オープン状態で5分程度連続送信していると Q2 のドレイン⇔ソース間がショートモードで破壊してしまいした。
T2 は触れないほど発熱し、Q1, Q2 もかなり発熱していました。
Q2 の破壊した原因が、 T2 の磁気飽和による過電流で壊れたのか、発熱で壊れたのかは判りませが、Vdd=15[V] での連続送信は、1分以内にとどめておいた方が良さそうです。


下図は、Vdd=12[V]のときのフライホイール電流です。
フライホイール電流は、±約2.3A なので、12V での使用なら、FT50#61の最大起磁力以内となります。

i-cir_12v Vdd=12[V]時のフライホイール電流 ( x10 [A] / div )


T1 は、FT50#61にバイファイラ巻きで5回巻いて作りました。
Q1, Q2 のゲートインピーダンスが50Ω程度なのでもう少し巻き上げてインダクタンスを大きくした方が損失が減るはずですが、そうすると入力端子から見たインピーダンスがインダクティブになり、VSWRが悪化するので少し小さめのインダクタンスとしています。
5回巻きでインダクタンスは1.8uH、この状態で入力端子のVSWRは、1.2以下になっています。

t2  バイファイラ巻きで製作した T1



スプリアス

Vdd15V 30W 出力時のスプリアスを下記に示します。(-50dB アッテネータ通過後のデータ)

i-cir

2次高調波、3次高調波とも -60dBc 以下になっています。
なお、LPF が2段の場合、2次の高調波が新スプリアス規格(-50dBc)ギリギリの値になってしまいます。
新スプリアス規格に適合させるためには、Q=1のフィルターの場合、3段必要なようです。




E 級プッシュプルアンプの動作原理


E級プッシュプルアンプの概要
E級プッシュプルアンプの基本回路を下記に示します。
class-e_push-pull_amp.png E 級プッシュプルアンプの基本回路

E級シングルアンプのようなコイルに直列に接続するコンデンサはありません。
また一見、B級プッシュプルアンプのようにも見えますが、トランスT2のセンタータップはコンデンサでアースされず、チョークコイルL3に接続されます。

E級シングルアンプでは、トランジスタがONの期間とOFFの期間で共振周波数を変えることにより下図のようなドレイン電流 Ids, ドレイン電圧 Vds波形を作りだし、ZVS(ゼロ電圧スイッチング)を実現していました。(動作原理は、こちらを参照)

class-e_vds_ids.png E 級シングルアンプのIds Vds 波形

E級プッシュプルアンプでは、C1=C2, L1=L2 として、ON期間、OFF期間で共振周波数が変わることなく一定の周波数で動作させますが、E級シングルと同じような Ids, Vds 波形を実現させています。

E級プッシュプルアンプにおいては、Q1 がONの期間での共振電流は、フライホイール回路 T2→L1→Q1→C2→L2の経路で流れ、共振周波数は C2と(L1+L2)で決まる周波数となります。
Q2がONの期間での共振電流は、フライホイール回路 T2→L2→Q2→C1→L1の経路で流れ、共振周波数は、C1と(L1+L2)で決まる周波数でとなりますが、C1=C2 としているので結局同じ周波数となります。

class-e_vds_ids.png E 級プッシュプルアンプのフライホイール電流

共振周波数は、スイッチング周波数よりも高く(1.2 ~ 1.5 倍程度)設定すると上手くZVS動作とすることができます。
例えば、7MHz の出力を得るのであれば、共振周波数は、8MHz ~ 11MHz とします。(フライホイール回路の Q が高いほど共振周波数は低くなります)
また、出力電力は、E級シングルアンプに比べ、同じ電源電圧であれば理論的には4倍の出力を得ることができます。


E級プッシュプルアンプは、共振周波数をスイッチング周波数より高く設定することにより動作していますので、フライホイール回路の還流電流は通常のLCの直列共振回路のようなきれいな正弦波にはならず、いびつな形の電流となります。
還流電流の波形は、共振周波数の調整具合によって変わってきますが、B級プッシュプルに見られるような偶数次の高調波に対する抑圧はあまり期待出来ず、2倍の高調波が高いレベルで出力されるため、 しっかりとしたフィルターで出力を取り出す必要があります。



E級プッシュプルアンプの動作原理

E級プッシュプルアンプでは、ON期間、OFF期間で共振周波数が変わることなく一定の周波数で動作させ、下図のようなE級シングルと同じ Ids, Vds 波形を実現させています。

class-e_vds_ids.png

波形の生成のされ方を説明します。

フライホイール回路に流れる電流を直流成分と交流成分に分けて考えてみます。

先ず、直流成分ですが、
Q1 が ON の期間では、電源からドレインに供給される電流 Idd が、L1 → Q1 → グラウンドの経路で流れます。
Q2 が ON の期間では、電源からドレインに供給される電流 Idd が、L2 → Q1 → グラウンドの経路で流れます。
class-e_push-pull_principle2.png

従ってこの時の直流電流波形は、下図のようになります。(fsw : スイッチング周波数)
dc_current.png



次にこの直流電流にスイッチング周波数 fsw と同じ周期の共振電流 fo が重畳される場合を考えます。(実際には fsw = fo ではこのような波形になりませんが、考えやすいようにした概念図です)
なお、共振電流は、T2 のセンタータップにチョークコイル L3 が接続されているため、グラウンド側には流れず、フライホイール回路を一周して T2 へ戻り、T2 の2次側からこの共振電流のエネルギーを取り出します。

class-e_principle3.png


rf_current1.png

このようにスイッチング周波数 fsw と共振電流 fo が同じ場合は、不連続な電流波形になってしまいます。(実際には fsw = fo ではこのような波形になりませんが、考えやすいようにした概念図です)



共振電流に連続性を持たせるためにfsw < fo としてみます。

rf_current2.png



図中のA点でフライホイール回路の共振電流は急に直流バイアスを失いますが、L1, L2 はその時点での同じ時間当たりの電流変化率を保つように電流を流し続けます。
従ってL1, L2, C2 による共振現象はここで停止して、電流はB点へ向かって直線的に下降して行きます。
電流がB点に達すると L1, L2, C1 との間でエネルギーのやり取りが始まり共振現象が再開しC点に至ります。
なお、A点からC点までの期間(青色の電流で示している部分)は、コンデンサC1 に流れる電流です。
C点では、Q1 が ON するので、C1 にチャージされた電荷がゼロとなります。従ってC1は、A点でチャージゼロの状態からチャージが始まります。
さらにC点では、急に直流バイアスが印可されますが、L1, L2 はその時点での同じ時間当たりの電流変化率を保つように電流を流し続け、電流は直線的に増加します。
電流がD点に達すると再びL1, L2, C2 との間でエネルギーのやり取りが始まり共振現象が再開しA点に至ります。


T2 の1次側の負荷抵抗が小さい場合などフライホイール回路の Q が高くなると、フライホイール電流が増加、即ち出力がアップしますが、このときフライホイール電流の時間当たりの変化率も大きくなります。
従ってA点での下降電流の傾斜が強くなるので、フライホイール回路の Q が高いほど、共振周波数 fo を低くする必要があります。


下図に Q1 の電流と C1 がチャージされることによる C1 の電圧、即ち Q1 のドレイン電圧 Vds を示します。

rf_current3.png

C1 の電流が積分されてC1電圧波形となります。

下図は実測したフライホイール電流の波形です。共振回路にもかかわらず、かなりいびつな電流波形となっています。
したがってE級プッシュプルアンプから出力を取出すためには、T2 の後段にしっかりとした LPF を取付け、2次、3次の高調波を取り除く必要があります。

i-cir  フライホイール電流 ( x10 [A] / div )


下図は、L1 の両端電圧です。
こちらの波形も相当歪んだ形になっており、通常のLC共振回路とは違う動作になっていることが判ります。

i-cir L1両端電圧



このようにE級プッシュプルアンプでは、共振周波数 fo は一定ですが、直流バイアスのスイッチングを上手く利用してE級シングルアンプと同じ Ids, Vds 波形を得ています。